みほしブログ

趣味は生活と読書。

文学

足止めする飛び石と反涙活――町屋良平『青が破れる』

わりと本を読むほうなので、文章を読むのはそこそこ得意だ。基本的にすらすら読む。 カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫) 作者: ドストエフスキー,亀山郁夫 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2006/09/07 メディア: 文庫 購入: 29人 クリック: 257回 こ…

「性」から自由になれる日は来るのか――古谷田奈月『リリース』書評

恩師である弁護士の教授は、いわゆる鬼畜系AVの撮影によって被害を受けたAV女優の法的支援をしていた。彼女の授業で私は初めて鬼畜系AVというものを知った。水の張った透明なバスタブに何度も沈められ苦しさに顔をゆがめる女。列をなす何十人もの男にかわる…

「普通」とたたかうコンビニマン――村田沙耶香『コンビニ人間』書評

10人産んだら1人殺せる社会を舞台にした『殺人出産』。人工授精技術が発達し生殖と家族が分離され、夫婦間のセックスが近親相姦となる社会を描いた『消滅世界』。 殺人出産 (講談社文庫) 作者: 村田沙耶香 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2016/08/11 メデ…

語り騙られる控えめな「戦争」小説—『冥途あり』長野まゆみ

少年ふたりと犬一匹が夜の学校に忍び込み幻想的な体験をする『少年アリス 』で1988年に文藝賞を受賞し、デビューして27年。本人いわく〈地図でいうと別枠になっている島嶼部のような〉*1ところで執筆活動を続け、長らく文学賞と無縁だった長野まゆみが『冥途…

完全な反復は存在しない―『夜、僕らは輪になって歩く』ダニエル・アラルコン著、藤井光訳

「演じる」という行為は舞台の上に立つ俳優だけが行うものではない。ひとたび人と関わりを持てばそこに何らかの演技が入り込む。母と息子、兄と弟、師匠と弟子、それに恋人同士。それらの役柄にふさわしい行為を繰り返すことにより人間の関係性は保たれると…

繰り返されるほどぼやけていく「小学生」小説—『学校の近くの家』青木淳悟

小学生ってとても不自由だ。小学校は基本的に住む場所から行く学校が勝手に決められてしまい選択肢はないし、友達も大半はその学校のなかで選ばざるを得ないし、家族はそれ以上に選ぶ余地がない。カネもなければアシもせいぜい自転車くらい。それなのに高学…

山田詠美『4U』—恋愛のアティテュード

〈男が長いことつかっていたバスタブの残り湯は、はたして、スープか。〉 山田詠美『4U』の書き出しの一節だ。初めてこの小説を読んだとき、まだルーズソックスを履いたおぼこい女子高生で、せいぜいお父さんの残り湯くらいしか目にしたことがなかった私は…

ハリ・クンズル『民のいない神』書評―知への欲求と妄信の近しい関係

ハリ・クンズル『民のいない神』はアメリカ南西部のモハヴェ砂漠が舞台となっている。モハヴェ砂漠はモルモン教の本部があるユタ州、インディアンが未だ多く住むアリゾナ州、張りぼてのようなカジノタウン・ラスベガスがあるネバダ州、そしてロサンゼルスを…

女系四代、愛すべきうっかりした生涯―『乙女の家』朝倉かすみ

読み終えての第一声は「ずっるーい……」だった。朝倉かすみはずるい、ずるすぎるほど巧みなんです。そしてこの小説を好きにならない人間がいるだろうか(反語)。 『乙女の家』は「うっかりした生涯を送ってきました。」という一文から始まる。文学ズレした輩…

真剣にふざけるには強靭な文体が必要です。―『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』木下古栗

木下古栗は、真剣に、不断の努力によって、ふざけることができる強靭な作家だ。『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』は三つの中編が収められていて、そのどれもが徹底的にふざけている。 表題作は、失踪した米原を米原含む同僚三~四人(推定値)でフ…

国語の教科書に対する違和感の正体

最近Twitterで回ってきたコラムで、とっても面白かったものがある。 筑摩書房の教科書サイト「ちくまの教科書」で野中潤さんという国語教師の方が連載されている国語の教科書についての考察です。 リンクはこちら↓ ちくまの教科書 > 国語通信 > 連載 > 定番…