みほしブログ

趣味は生活と読書。

徒歩2分の旅

3日ぶりにマンションの外へ出る。


足の感覚がなんか変。
浮腫んでいるのでも筋肉痛でもなく、ふくらはぎに水風船をぶら下げているようなやさしい怠さを感じる。ほとんど歩いていないからだろう、足の筋肉がおとろえているのだ。


わたしは人口がとても多い街に住んでいる。新宿や渋谷の土日の人出は8割減、とテレビのニュースはすかすかのスクランブル交差点を映し出す。その減ったひとたちは自宅とその周りで過ごしているので、必然的にわたしの住む街はたいへん賑わっている。平日もいつにも増してひとが多いが、土日なんて公園はぎゅうぎゅうでスーパーのレジは30分待ち。
怖くて土日は家から一歩も出ないようになった。なるべく用事は平日に済ます。


土日と家にこもって3日ぶりに外へ出て、徒歩2分のコンビニに行くだけでうれしい。娘以外の人類を見てほっとする。滅亡していない。


徒歩2分のコンビニはちょっとした八百屋みたいに野菜の品揃えが充実していてたいへん助かる。皮に土がついたままのたけのこ、粒の大きさによって値段の違うパックのいちご、穂先がぴんと立ったアスパラガス。野菜やくだものに春が来ていて、それを収穫してくれるひとがいるという事実だけで泣きそうになる。


わたしはアスパラと牛乳とパンとアイスと炭酸水と払込用紙を手にレジの列に並ぶ。ふだんコンビニでこんなにたくさん買い込むことはほとんどないけど、「ふだん」ではないからよいことにする。もしかしたら、これが「ふだん」になるのかもしれないけれど。


レジの列をつくるところの床には立つ場所を示す線が描かれている。たしか先週はこの線はなかった。その線にしたがって立っても、前のひとと1メートルも離れていない。ソーシャル・ディスタンスは2メートル以上ではなかったっけ。でも広くない店内でそれは難しいのだろう。わたしは線を無視してなるべく前のひとと距離を開ける。


男のひとがわりとぴったりわたしの後ろに並ぶ。しかもマスクをつけていない!久しぶりに他人の口元を見た気がする。職人さんぽい日に焼けた壮健そうな男性だが、小池百合子都知事みたいに手をかざして「密です!」と叫ぶ勇気はなかった。後ろのひとをちらちら見ると、あっ、と気づいたみたいで一歩後ろに下がってくれた。床の線のほうに気づいたのかもしれない。


レジの台のまえには天井から透明なシートが掛かっている。台とシートのあいだは買い物かごがぎりぎり通るくらいの隙間が開いていて、隙間にかごを滑り込ませる。
レジのひとはいつもどおり丁寧で礼儀ただしい。払込用紙にスタンプをリズムよく3つ押し、手際よくレジ袋へ買ったものを詰め、シートのしたから荷物を差し出す。この透明なシートにどれだけウイルスを防ぐ効果があるのだろう。わたしはせめて店員さんの手に触れないようレジ袋を受け取る。


徒歩2分の旅を終え、娘が待つマンションの部屋へのろのろと戻る。新鮮なアスパラは茹でてポーチドエッグをのせて食べたいな、と明日の朝ごはんのメニューをぼんやり考える。

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