BFをめぐる女の人生
娘がお腹にいた頃、私自身たいへん忙しく、その上ラッキーなことにつわりなし・体重ほぼ増加せず・妊娠中毒症のたぐい一切なしの健康体妊婦だったので「産休になってから色々準備すりゃいーだろ」っていう余裕っぷりで育児書の1冊も読んでいなかった。
それに不安を覚えた当時の夫が、妊婦向け、新生児を持つ母親向けの雑誌をどさどさと6、7冊持って帰り私に渡してきたことがあった(ていうか出産育児に不安があるならお前が読めや!と9年後の私からツッコんでおく)。
妊婦向け雑誌はまだ赤子が産まれていないのにお互いを「パパ、ママ」と呼び合う夫婦がにこやかに何組も掲載されていた。
オムツのサイズをXSからSサイズに変える月齢の目安(そんなの産まれてくる大きさは千差万別なんだしXSがきつくなったらでいいんじゃないの?)や、内祝いに最適の缶のラベルに子どもの写真と誕生日を入れられる紅茶(新郎新婦の写真入りプレートよりかはマシか)など、ありとあらゆる情報が雑誌には詰まっていてくらくらした。
記事のなかに「空き缶や空き瓶をベビーグッズに変身させよう!」という企画があった。私は例のごとく「わざわざ出産育児で忙しいときにゴミの再利用まで考えなくても…」とどうもママ向け雑誌のテンションの高さについていけずパラパラとページをめくっていると、不思議な一文を見つけた。
「ジャムの空き瓶はBFを入れるのに便利!」
BF???
BFといえばボーイフレンドの略である。それは私が小学生で「りぼん」を愛読していたときから決まっていた。
英語でboyfriendといえば彼氏のことだけど、日本語でボーイフレンドといえば悪しからず思ってはいるんだけど付き合ってはいない特別な男友達、という意味合いを帯びた少女マンガに欠かせない存在である。
といってもボーイフレンドがジャムの瓶の中に収まるわけもなく。私は前後の文脈からBFが何の略か読み取ろうと考えた。
「ベビーフードか…!」
私はいつの間にかボーイフレンドがベビーフードになる世界へ来てしまったのだ。私は私のままで変わらないのに、周りからの扱われ方が変わっていることに衝撃を受けた。男の気を引いたあとは子どもの世話。たった2文字のアルファベットに規定路線の女の人生を教えられた気分だった。
…BFだけで人生終わらせないぜ!それではごきげよう!!