みほしブログ

趣味は生活と読書。

伊豆で食べることについての記憶―のびるやあわび、レストランジュピターなど

もう20年も前、私が中学に上がるくらいまで、夏休みやゴールデンウィークは父と母と5つ離れた妹と伊豆高原の別荘で数日過ごすことが習わしだった。

伊豆高原での日々は近くに住む私たち姉妹と同じ年頃の兄弟と遊んだり、大室山を散策したりすることも楽しかったけれど、食いしん坊の私にとって食べることも大きな楽しみのひとつだった。
当時は出不精で高齢の祖父と同居していたので、家での食事は親子丼やら肉じゃがやら祖父の好みを反映した肉系和食ばかりで外食はほとんどしなかったし、したとしてもせいぜい祖父の口にも合う中華料理店くらいだった。今思えば伊豆への旅行は母を祖父の世話から解放するという目的もあったのかもしれない。

伊豆で初めて口にした食材はたくさんある。
父がお酒のアテとして用意しておいたのに味噌をつけて全部食べちゃった伊豆でとれたのびる。伊豆の海岸の屋台で「こんなにおいしいものが世の中にあるのか!」と感動したあわびの踊り焼き。(ちなみに両方とも6歳くらいの記憶で、未だにこのエピソードは「幼いころから酒飲みの片鱗があった」と家族のなかで繰り返し語られている。)

行きつけのレストランもいくつかあった。
大きな海老のフライがうりの和食レストラン「やまか」。初島や大島といった伊豆七島の名前が定食に付けられていて、天気のいい日には窓から大島を眺めながら「大島」を食べることができた。腹ごなしにお店の裏にしつらえられた和風庭園を散歩するのが好きだったが、残念ながらこのお店はもうない。

今も営業を続けているレストランが「ジュピター」だ。
城ヶ崎海岸沿いの道路に建つ白い瀟洒なレストランには、ライオン用と言われても信じてしまうくらい大きな檻が駐車場に備え付けられていて、そのなかに100㎏を超える巨体のセントバーナド犬ドンと、耳の垂れた黒い毛並みの中型犬ポチが暮らしていた。「ジュピターに行くよ」と言われると「やった!ドンとポチに会える!」と妹と飛び跳ねて喜んだのが懐かしい。
犬だけでなく、料理ももちろん嬉しかった。私はここでペスカトーレというパスタ料理を知り、いつもそれを注文した。本場イタリアのペスカトーレは魚介をトマトソースで煮込んだものだけど、当時のジュピターのペスカトーレはオイルベースで、ムール貝やいくらが大根おろしとともにのっていた。本場がどうであろうと、私が初めて食べたペスカトーレはジュピターのペスカトーレだ。
あと、忘れてはいけないのがフレッシュメロンジュース!金魚鉢みたいなまるい大きなグラスに注いだ搾りたてのメロンジュースには銀色のアラザンを散らしたクリームがのっていて、子どものころの私にとってそれは世の中で一番美味しくて一番ぜいたくな飲み物だった。
妹も大好きだったけれど、5歳下の妹にとって金魚鉢のグラスは大きすぎて、このジュースを飲むたびにお腹をこわした。そんなことをお店の女性にぽろりと話すと、次から細いグラスに半分の量を入れたものを出してくれるようになった。お代は金魚鉢のグラスの半額にして。素敵な心遣いだと感動したことを覚えている。

私が小学校高学年のころ、ドンが死んだ。広い檻にぽつんと暮らしていたポチもその後亡くなった。小さかった妹は今では私より10㎝背が高くなり、私はジュースよりお酒が美味しく感じるようになってしまった。
ジュピターもメニューが変わってしまっているみたいだけど、変化しながらも小さいころの思い出がつまったレストランが今も続いていることが、幼馴染が元気で暮らしていることを知ったときのようにじんわりと嬉しい。

 

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ぐるなびお題「思い出のレストラン」
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