みほしブログ

趣味は生活と読書。

招き猫はタイムカプセル

子どものころ毎夏過ごした伊豆の別荘。別荘は急な坂道のふもとに建っていて、坂の上には陶芸家の一家が暮らしていた。

陶芸家のおうちには私たち姉妹と同じ年頃の兄弟がいて、私たちは別荘に着くと坂を駆け上り、ざらざらした愛嬌のある焼き物の並ぶ小さなアトリエ兼店舗を通り抜け、兄弟が暮らす家へ遊びの誘いに行った。
かくれんぼ、延々と続くスーパーファミコンのぷよぷよ対決、別荘の庭に茂る草木のスケッチ。不安や悲しいことを一切含まない、完成された夏の思い出。
私も妹も、両親との旅行より友達とのファストフードでのおしゃべりに価値を見い出す年齢になり、別荘へ行かなくなって20年。
昨年、兄弟のお父様であり陶芸家の方からお兄さんも陶芸家になり、あるホテルで陶芸教室を開催していると教えてもらった。
先週、両親がそのホテルを訪ねて、20年ぶりに彼に再会し、彼の作品をお土産に持ち帰ってきてくれた。
ぷちぷちとした梱包材からころんと出てきたのは小さな招き猫だった。
 
「知ってる」
 
そう思った。彼の作品を見るのは初めてなのに、今まで伊豆の別荘で過ごした思い出なんてすっかり忘れていたのに、その招き猫がタイムカプセルのように私のかけがいのない夏の記憶を運んできてくれた。
私はこの招き猫を見たことはないけれど、知っている。
いつか、彼と彼の作品に会いに行こうと思う。急ぐことはない、私には招き猫がいる。
 
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